カテゴリ:書評 のアーカイブ

ラットマン 道尾秀介

ラットマン (光文社文庫)

以前、何気なく観ていたテレビで、小説の作家の対談が流れていた。本書の著者である道尾秀介と、その解説を書いている大沢在昌との対談だったと思う。

その中で、日本語の書き方で伝わるニュアンスが変わってくる、といった趣旨の話をしていた。同じ言葉を漢字で書くのと、ひらがなで書くのでは異なるという話である。そして、道尾秀介は、その使い方が作家として上手いと大沢在昌が絶賛していた。

私自身ドキュメントを書くことが多い仕事をしているが、そのドキュメントを書く中で、私はこの日本語の使い方を特に気にしている。素人ながらその努力をしているのだが、その使い方が上手いというプロがいると聞いたら気にならないわけがない。

なのでこのテレビの対談を観て、この道尾秀介という作家の作品を読みたいとそのとき思った。そう思いながらも、本書を手に取るまで残念ながら忘れていた。

このラットマンという小説だが、内容、物事の表現、日本語の使い方、すべてを取っても素晴らしいものだった。読みおわった時に、何もかもやられたと素直に思った。

本書の最後の方で色々なことが明らかになる。その一つ一つが明らかになるたびに「やられた」と思う。そして、色々なモノが登場する。病人、バンド、カマキリ・・・書き方でこんなに捉え方が変わってくるのかとビックリする。ものがたりの中で、ラットマンの話が出てきて登場人物たちの考えを翻弄するが、その効果を受けて一番翻弄されてしまうのは、この本を読んでいる読者であることが読み終って気づく。それを巧みに誘導するのは、日本語の使い方が上手い道尾秀介だからできる芸当なのか?

本書はミステリでは珍しく、また読みたいと思う作品である。また何冊か本を読んだら改めて読み返してみようかと思う。

夜明けの街で 東野圭吾

夜明けの街で (角川文庫)

そういえば東野圭吾の本を読んだ事がなかった。本屋に行くと、すごい数の著書が並んでいる。よくもまあこんなにかけるものだと関心さえするほど。

さて、この本は自分が愛した女性、しかも不倫相手が殺人犯人かもしれないという不安に怯えながらも、愛した女性を信じたいという男の苦悩を描いたミステリ。

私は、この本を読んでいる間ずっとあまり良い気持ちではなかった。妻、子供がありながら、妻とは別の女性を愛してしまった男。妻に密会がばれない様に気に病みながらも会い続ける男。その気持ちが中心に描かれている。読みながら何故か罪悪感が襲ってくる。

ある意味その心理描写がリアルで東野圭吾のすごいところなのだろう。ただ、なんとなくミステリではなく、不倫小説を読んでいる様な気分になった。でもせっかくなので、機会があったら東野圭吾のこの描写力が活かされた別の本を読んでみようかと思う。

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ジーン・ワルツ 海堂尊

ジーン・ワルツ (新潮文庫)
神秘とさえいえる命が産まれる瞬間。そこに人為的な何かが加わる瞬間、それは神秘なのか?

それについてはいろいろな考え方ができる。その行為は神への冒涜なのか?神への手助けなのか?この疑問に対する回答は簡単にできるものではない。

しかし、法律という規制は無情にも白黒を明確にする。さらに、現場の実状を考えずに決めたとしか思えない規則も数多くある。これらにどう闘ったら良いのだろうか?

医学とは?医療とは?この両方を熟知した筆者が代理母出産というテーマを取り上げて現在の医療制度に対して問題を提起をしている作品。

医療に興味があれば特に面白いと思えるだろう。しかし、中盤でだいたい結末が予想できる上、読み終わってもその予想を裏切らない。ミステリーではないのでそこまで期待をしてはいけないのだろうが、少し残念さが残った。

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砂漠 伊坂幸太郎

砂漠 (新潮文庫)

学生の青春小説というのは今まで読んだ事がないジャンル。読んでみるとなかなか面白く、気づいたらどんどん書の中に引き込まれていった。

この本の最後に主人公のクラスメイトが言う。本当はお前らみたいなやつらと仲間になりたかったんだ、と。何かこの言葉がすごく印象に残った。

主人公が鳥瞰的な視点を持った青年、いわゆる冷めたやつというのが面白い。その視点で進む物語を、独特の文体が面白さをさらに引き上げる。

気楽に読めて、いろいろな意味で楽しめる本である。

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永遠の0 百田尚樹

永遠の0 (講談社文庫)

泣いた。素直に泣いた。それも、飛行機の中で。

その時座っていたのは窓側で、よりによって熊本に向かう飛行機。隣の席も空いていたが、一つ席を挟んだ隣には他の乗客が座っていた。その人が気づいていたかどうかは定かではない。しかし、スチュワーデスにはしっかり見られていたと思う。

わかっていたが、どうしても流れ出る涙を止める事が出来なかった。唯一成功したのが、嗚咽を止める事。今から考えると、家で読んで思いっきり泣いてしまっても良かったのではないかとも思う。それだけ気持ちよく泣く事ができた。

本の内容はというと、現代の弁護士を目指す青年が勉強に行き詰まった時、
自分の本当の祖父が特攻隊員であった事を知る。その情報を持ってきたライターの姉からの依頼で、退屈しのぎにどのような祖父だったのかを調べるというもの。彼はいろいろな人から祖父の話を聞いていくなかで、ある疑問が生まれる。

帝国軍人でありながら、禁句と言われた『死にたくない』という言葉を公然と発しながらも最期は特攻してその尊い命を散らす。なぜ祖父は『死にたくない』と言い、それでも特攻して死ぬ運命にあったのか。

彼はいろいろな人に会い話を聞いていくなかで、その真実に次第に気づいていくというもの。読者である私もその真実を垣間見た時から涙が止まらなかった。

主人公の青年も戦争は経験していない。もちろん、私も戦争は経験していない。だからこそ、この本は読むべきだと思う。それだけリアルに感じ、戦争に関わった人たちの想いが伝わってくる、いや、戦争体験者の本当の想いのうちのほんの少しなのだろうが、伝わってきたような気がする。

表現、構成、どれをとっても素晴らしい本だった。百田尚樹に完敗ですな。

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